石川さんの河川環境コラム07
さけ・ますふ化場の春 ボランティア 石川 清
写真1
 北海道にも遅い春がやってきました。融雪も進み、野にも緑が芽吹きつつあります。
さけ・ますふ化場の暗い水路の中に移された稚魚はその後どうしているでしょう。
春になり、体の大きくなった稚魚は屋外の飼育池に移されています。
かつては、稚魚が泳ぎ始めるとそのまま河川に放流されていました。しかし、稚魚を一定期間ふ化場の池で飼育して給餌を行うことで沿岸にサケが戻ってくる回帰率が飛躍的に向上しました。現在は、サケ稚魚への給餌は常識になっています。
ふ化場では稚魚の大きさに合わせた大きさの餌を与えています。(写真1)
かつては池の縁から池に餌をばらまいていました。背中に背負って動力で餌を吹き出す給餌機もありました。今は一部のふ化場では写真のように水面に餌を浮かせて給餌しています。餌の喰いをよくする、体の弱い稚魚にも餌が行き届くようにする等の工夫の中で生まれてきた方法のようです。
まるで雨が降っているように水面がさざめいているのは稚魚が水面まであがってきて餌を食べているからです。(写真2)
今現在のサケ稚魚の大きさは0.5g程度です。この稚魚が倍以上の大きさになった頃に川に放流されます。サケ稚魚の放流時期は日本海側は5月前、オホーツク海側は6月頃になります。稚魚の世話はまだまだ続きます。
この間、ふ化場では写真3のように池の掃除の仕事も大切です。池の底に沈んだ残餌の清掃、池の水が留まらないように池の下流で死んでしまった稚魚やごみを取り除く作業もあります。
稚魚が大きくなるにつれて、ふ化場で使う水の量も増えていきます。エラ呼吸をする大量の稚魚が消費する酸素を供給するために必要な水量を確保することはふ化場の重要な課題です。
しかし、この時期の河川は決してきれいとはいえません。
水産王国の北海道は酪農王国でもあります。酪農家は冬の間に草池に散布できなかった大量の糞尿を一斉に草池に散布します。中には、草池に散布しないで川の横に押しつけていく不心得者もいます。(写真4)ふ化場からは上流の酪農家に牛を水飲みのためであっても河川内に入れないでほしいと要望をしています。牛は川の中を踏みならして川を泥で濁すだけでなく、川の中で糞尿をたらしています。この糞尿混じりの河川水がふ化場の飼育水としてふ化場に流れ込んで健全な稚魚の生育を妨げています。
稚魚がふ化場から放流されても川から海に出るまで、この糞尿の洗礼を受け入れなければなりません。
いま、漁協やふ化事業を行うさけ・ます増殖事業協会では、酪農家へのお願いの他、河川の水質を安定させるための河畔林の確保、河川周辺への植樹を行っています。(写真5)
農協や消費者団体とともに植樹を行うという試みもあり、河川流域関係者全員での河川環境の保全、再生が進められています。
写真2:
写真3:
写真4:
写真5:
 

(2002/04/29)
コラムTOP淡水生物TOPikura HOME

Copyright (C) 2000 -2002 Sapporo Salmon Museum VolunteerAll rights reserved.
inserted by FC2 system